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『ひろば』201号

 

コロナ禍において紙媒体での配布が困難となり、自分たちの手で電子化した201号。 論題:「消滅」では『失われた町』『老いた大地の底で』『パラドックス13』『ミッドナイト・イン・パリ』、 論題:「近現代英国」では『〈英国紳士〉の生態学』『たいした問題じゃないが』『新しい十五匹のネズミのフライ』『ミス・ポター』『ベイカー街の女たち』『ハリー・ポッター』、 新刊寸評では『ツイスター・サイクロン・ランナウェイ』『難事件カフェ』、 自由書評では『熱源』『超必CHO-HI』『熱帯』、 これら書評に加えひろば民のエッセイも収録。 充実の26ページとなっています。

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『ひろば』202号

コロナ禍対応のため201号に引き続き部員によって電子発行された202号。論題:「神話」では『サンティアゴ』『The Return of Santiago』『アメリカン・ゴッズ』、論題:「児童文学」では『獣の奏者』『ちいさなちいさな王様』『ニーベルンゲンの宝』『モモ』、論題:「感染症」では『治癒神イエスの誕生』『白い病』、「新刊寸評」では『四畳半タイムマシン・ブルース』『破局』を紹介しています。他にもエッセイや自由書評として『歴史の暮方』『民主主義は終わるのか』の書評も掲載。渾身の26頁となっています。

『大した問題じゃないが』

書店でこの本を手に取ったのは、タイトルに目を引かれたからである。 『大した問題じゃないが』 そうか、大した問題じゃないのか。周りの本が、抽象的な表現で大仰な肩書を背負っているのに対して、あまりに控えめなタイトルである。僕は、しばしば本の宣伝文句として使われる、内容とかけ離れた大風呂敷にうんざりしていたので、この本には親しみを覚えた。何せ、『最強の~』とか書かれた本に、最強であった試しはないのである。(この文は不適切なら削除して構わない。体裁は大事だ。) しかし同時に、大した問題じゃないならどうして本を書くのだ、という疑問も沸いた。問題にすべきことがあるから、本を書くのだろうに。つまらないものですが、と言って手土産を送るのとはわけが違う。読む価値がないと、自分で宣伝しているに等しい行為ではないか。 しかしながら、この、あまりに挑発的なタイトルという試みは、僕の場合については成功を収めたようである。むずむずした気持ちを抑えきれずに、買ってきてしまった。定価660円。今日一日の精神安定のためには、少し高い値段ではあった。 さて、肝心の内容であるが、20世紀イギリスの傑作コラムを選抜したものである。各コラムは数ページ程度で、あまり長編を読む体力のない人にもお勧めできる。訳もこなれていて、少なくとも訳のために引っかかるようなことはないはずである。 ところで、最初の問題に答えねばなるまい。タイトルのことである。問題にすべきことはあったのか?結論としては、ない。ただ、これをもって読む価値がないと断定するのは浅はかな考えであることを気づかされた。もとより見ようとしないことと、じっくり検討したうえで問題にならないと笑い飛ばしてやるのは、まったく質の異なる話である。たしかに、大した問題ではない。命を懸けた大冒険のストーリーが語られることはないし、権力闘争に狂ったスコットランド王の苦悩を描くこともない。なんなら、話題にされている中で一番大きいものは、動物園のゾウかもしれない。だが、普段我々の日常の中に埋没していってしまうような「大した問題にならない」ことを、卓越した感性で浮き彫りにし、豊かな教養で調理してくれる文章の数々は、実に痛快で、読んでいて気持ちがいい。ジョークも気が利いていて、普段光が当たらない生活の側面に光を当て、そしてクスリと笑えるようなエッセイが満載