本書は平均6ページほどの短い、41の物語が収められている短編集である。中には皮肉の詰まった作品がたくさん。それも、ただ単に皮肉っぽいのみならず、それぞれの物語にきちんと「オチ」がついているのが上手いところだ。ここでは本書を概観して分析的に解説するのは避け、いくつかの作品を取り出して紹介していきたいと思う。以下6本の作品を紹介する。
星は生きている
一見すると単なる珍奇なSFだが、考えようによっては現代への鋭い警鐘にも聞こえる作品。未知の惑星の不可思議な謎が次々に発見され、最後に「オチ」で解決されるという流れがスッキリしていて秀逸。短いが刺激的である。
亭主料理法
恐ろしい題名だが、期待を裏切らないぞっとする作品。突如として雰囲気が変わった後の、淡々と描かれる後半部に圧倒される。しかも、単にぞっとするだけでなく、一工夫されているところが独特。
幸福ですか?
個人的に、最も皮肉がよく効いている作品だと思う。「あなたは今、しあわせですか」という女性アナウンサーの質問から始まる本作品では、テレビ局が皮肉を込めて描写されている。マスメディアのあり方に一部疑問、不満を抱くことがないわけではなかった私としては、そういった点がなかなか歪んだ形で描写されていて、溜飲が下がる思いだった。本作品にもきちんと「オチ」が付いていて、さらに作品の味を引き立てていると言えるだろう。
お助け
この作品内では人間の本性が書かれていると言えよう。宇宙航空士として激しい訓練と実験を耐えてきた主人公は、自分以外の全ての人間がまるでスローモーションのようにノロノロ動くようになったことに気付く。そして彼は奇妙な境遇の中で段々とおかしくなっていく。ある意味とてもリアルなため主人公の境遇にゾッとする一方で、不思議と読後感は爽快かもしれない。
ベルト・ウェーの女
電子頭脳がほとんどの仕事を処理し、のんびりと仕事をする主人公イズミ。彼は通勤路と立体的に交差する別の繊維道路に乗る女に惚れる。手紙を落として彼女の気を引くか、盗撮した写真を市民局に提出して彼女を特定するか…。迷うイズミであったが女にはイズミとは恋愛できない秘密があった。
というあらすじの本作品はいかにもSFらしく、表紙の「近未来的」デザインのイメージを想起させる。特に、表紙と本作品のイメージが重なり合う箇所は自動で動く歩道が立体的に張り巡らされている点だろう。
本作品では繊維道路、と呼ばれるベルト・ウエーが都市内を縦横無尽に走っている。隣同士で少しだけ速度が異なる多くの細い筋が集まることで、中央は速く、両側はゆっくり流れるまるで一本のベルトかのような歩道ができあがる。これが繊維道路であり、主人公の恋愛の舞台でもある。
個人的には並行して走る違う速度の「動く歩道」を子供の頃よく妄想したので、それが小説内とはいえそれがまさに実現されていることがとても印象深かった。
にぎやかな未来
表題作。本書の最後に収録されているこの作品内で描かれるのは、公共のFM放送にさえCMが頻繁に入るようになった未来。レコードをかけない限りラジオをつけっぱなしにしなくてはいけず、ラジオを切ると罰せられる法までできてしまう。主人公はCM無き曲を求めレコード屋へと向かうが…。
FM放送、レコード、という点は古いかもしれないが、無料のサービスには多くの場合広告がついて回る現代では他人事とは言えないだろう。先進性もさることながら、オチも秀逸な作品である。
最後に、本書の巻末にはショートショートを数多く書いたことで有名な星 新一による解説が載っていることもお伝えしたい。作品を存分に楽しんだ後、立ち止まってこの作品群について振り返るために読む解説としてちょうどよい、思わずなるほどと納得してしまうような文章が載っている。
出版社のページに飛びます:https://www.kadokawa.co.jp/product/321601000110/
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